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技術書典7を導線から考察する(3)

技術書典7を導線から振り返る考察記事シリーズ、いよいよ最終話(第3話)です。

本シリーズの位置づけや執筆の意図は第1話の記事を

n4note.hatenablog.com

上下階移動についての考察は第2話の記事を

n4note.hatenablog.com

それぞれご覧ください。

観点3. 導線をコントロールする運営スタッフについて

何があったのか

技術書典7ほどの規模となっている同人即売会は、 多くの参加者が大挙して押し寄せる大イベントになります*1。 参加者に対して人数比的に圧倒的不利な状況にありながらも、 運営スタッフは逃げることは許されず、立ち向かっていかなくてはなりません*2

「目の前で起きている事象」よりも「それに対処する運営スタッフの挙動」に目がいってしまう同業他社的ものの見方が発揮された結果、 導線管理や誘導にあたっていた運営スタッフの対応について、いくつか気がかりな点が確認できました。

1. 列の曲げ方、切り方、変形の仕方についての意思統一が取れていない

サークル参加証を手交されたサークル参加者が、各ホールに入るまでの間に長時間待機を余儀なくされたことについては、 第1話の記事で言及したとおりです。 その際、建物外からガラス扉を通って建物内に入る部分は列が90度曲がる部分だったのですが、 対応するスタッフによって、列を切って列幅を変えずに曲げたり、列を切らず曲げながら列幅を変えたりと一貫性のない対応が行われているように見えました*3

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また、ガラス扉はこれから列に並ぶ参加者も通る経路となっていましたが、 私が並んでいたとき目の前にいたスタッフは待機列をそのまま一本にしようとしており、 危うく導線を完全にふさぎかねない状況になるところでした(さすがに驚いて「導線ふさいじゃうけど大丈夫?」と運営スタッフに言ってしまいましたが...)。

2. 複数列を取り扱うための知識が不足している

もうひとつ、 同一方向に複数の列が並んだ状態*4における列の移動についても気になる部分がありました。 この形で作成された列は動かす向きが同じ方向になるため、ひとつ前の列が完全に動ききるまで動かさないでおき、 ひとつ前の列の最後尾に最前を接続する形で動かす(図の①)か、 1列ずつ空いたスペースへ移動させる(図の②)のが同人即売会でよく使われる手法です。 なぜなら、あまりにも一気に列が移動を行うと列の前後左右が混じってしまい、 せっかく作った列の秩序が崩れやすくなってしまうからです。

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ですが、今回においては2階から3階へ移動する際の待機列について 「最初の列が移動して無くなった場所へ、残りの列全体が横へスライドしていく」という移動方法がとられていました。 各人によって荷物の量や移動のしやすさから横移動にはタイミングのズレが出やすいのですが、 それを気にせず一気に横スライドしてしまった結果、一部では各列の境があいまいな状態になっていたことが確認できました。 幸い参加者同士のトラブルになるような混乱はありませんでしたが、内心ヒヤヒヤしていたのを覚えています。

ホント、みんな心優しくて良かった...(他の即売会ならクレームものだった、かも。)

推察される背景

なぜこのような状況になったのでしょうか。 大きく考えられるのは次の2点ではないかとみています。

1. スタッフ自体の人員不足

どんなイベントでもスタッフの充足は重要なのですが、 結構ハードルが高いことでもあります*5。 最近では(3日間開催が4日間開催になった)コミックマーケットにおいて、 準備会公式Twitterアカウントが大々的にスタッフ募集を呼びかけたこともありましたし、 技術系即売会として注目度の上がってきた「技術書同人誌博覧会(技書博)」でも、 当日スタッフの募集には難儀しています*6

技術書典7においては主催のmhidakaさんの考えもあり、 公にする形でスタッフの募集はしていません。 私としてはこの考えを真っ向から否定する気はありませんが(むしろ一理ある)、 このような事情から、先に挙げたコミケや技書博よりもスタッフが集めづらいのではないか、 と推察します*7

技術書典6に向けて開催されたサークル連絡会での質疑応答より。確かに、一理ある。

その前提条件で今回は開催フロアが増え、物理的に面積が増えています。 面積が広がった分、スタッフ一人当たりの活動領域は広がりますし、負担も増えます。 その結果、場所によっては配置が手薄になってしまう場所が出てきてもおかしくはありません。 また、少ない人員で多くの参加者を相手にしなければならない状況も発生しうるでしょう。

2. スタッフのスキル

少ないスタッフでイベントを切り盛りするためには、最終的にはマンパワーに頼らざるを得ないのですが、 同人即売会スタッフに求められるスキルは特殊なものが多く*8、 「カンファレンスや勉強会のスタッフをやっていたから大丈夫」とも言い難いのが実情です。 先の「列の曲げ方、切り方、変形の仕方」や「複数列を取り扱うための知識」というのは天賦の才能でなんとかできるものでもなく、 適切な知識の学習と実現場での実践によって身につくものです。 技術書典のスタッフ(特にコアスタッフ)に同人即売会スタッフ経験者がどの程度いるのかは残念ながら分かりませんが、 イベントが成熟してきた今だからこそ、スタッフ一人ひとりのスキルについても考えた計画が必要なのかもしれません。

とり得る対応は

では、どのような対応がとり得たのでしょうか。

一番の理想はスタッフの数を増やし、個々のスタッフのスキルを上げることなのですが、 どちらも簡単にはいかないものでもあるので、現実的な対応としては会場規模を大きくしすぎないことを挙げたいと思います。 会場規模を大きくしすぎないことで、極力スタッフ配置が手薄にならないようにできますし、 少ないスタッフでもコントロールができる運営規模に抑えこむことができます。 代償として受け入れられるサークルの数が減ってしまいますが、 無理に背伸びしすぎて全体リスクを上げてしまうよりましではないでしょうか。

先日(といってももうだいぶ前になってしまいましたが)の発表にもあったとおり、 次回の技術書典8は開催フロアを1フロアに戻し、その代わりに2日間開催とすることで受け入れサークル総数を維持する選択を取りました。 「会場規模を大きくしすぎない」という観点から見れば、現実的かつ堅実な選択をしたものだと考えています (今まで1日しかやってきてないのに2日連続もスタッフもつの...?という心配は残りますが)。

まとめ

3回にわたり技術書典7を考察してきました(途中思いっきり間隔があいてしまい申し訳ありませんでした)。
イベントの規模が大きくなれば大きくなるほど、それまで些末だった問題点が大きくなってしまうのは避けられないことです。 そんな宿命を抱えつつ継続開催に尽力する運営スタッフのみなさんに感謝と尊敬の気持ちを抱きつつ、 今後もお互いが気持ちよく参加できるイベントとして維持されていくことを強く願って、 本考察シリーズを閉じたいと思います。

*1:大イベントが故に、あのような大きな会場でないと運営ができないという見方もできるでしょう。

*2:過去に主催が開催目前に蒸発した即売会もありましたが...

*3:ちなみに、カーブの内側と外側で移動距離に差が出るため、列を繋げたまま曲げる方が難易度が高いです

*4:このような列を通称「ショットガン」と呼びます。列を動かしたときの動きが似ていませんか?

*5:買い物に行ける時間を削ってまで協力したいと思う人がどのくらいいるのか、という問題

*6:当日スタッフの募集締め切りを延ばしました

*7:そのかわりに警備員の手配など、やれるだけのことはしていると思われます

*8:先述の技書博ガイドブックへの寄稿記事で、この点について少しだけ触れたことがあります