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技術書典7を導線から考察する(2)

お待たせしました。
技術書典7を導線から振り返る考察記事シリーズ、第2話です。

本シリーズの位置づけや執筆の意図、前回の考察は次の記事をどうぞ。

n4note.hatenablog.com

観点2. ホール混雑の偏り

何があったのか

今回の技術書典終了後、多くの方がTwitterや振り返りブログで触れていたのが 「2階・Dホールと3階・Cホールの混雑差」についてでした。 会期中に投稿されたツイートを眺めてみると

  • 2階・Dホールは比較的混雑している*1
  • 3階・Cホールは比較的空いている*2

という内容が多く確認できました。
この傾向は(ツイート上ですが)閉会直前まで確認され、 3階・Cホールに配置されたサークルから 「思っていたよりも売れ残っている」「被チェック数*3よりも売上数が低い」 という声が聞かれた、とのツイートもありました*4。 これまで技術書典においてあまり見ることの無かった 「爆死」(想定以上に売れ残り在庫過多になってしまった)という言葉が多く飛び交っていたように感じます。

推察される背景

なぜこのような状況になったのでしょうか。

今回の技術書典では、複数ホールでの開催となることから「ホール間移動」が大きな課題になったと思われます。 多くの場合、ホールとホールの間をつなぐ通路は主催者専有物ではない共用エリア(公共エリア)となることから、 「他の利用者に迷惑を極力かけない形で、いかに参加者を誘導するか」 という難題が主催者にはのしかかり、 これをどう解決するかが運営のポイントになってきます*5

これを解決するために運営事務局が踏み切ったのが次の施策でした。

1. 正面エスカレーターの使用禁止と、階段の一方通行化

ホール正面にあるエスカレーターは他の利用者も利用する可能性が高いと想定したのか、 技術書典参加者は上下階移動にエスカレーターを使うことができませんでした。 その代わりに、2箇所ある小さな階段を一方通行の形で使用する運用にしていました。

これについては「会場側から要請があったためこうせざるを得なかった」可能性も十分にあるのですが*6、 導線管理の観点から考えれば、この運用自体は賢明な判断だったと考えています。 エスカレーターは技術書典に関係しない他の利用者も使いたがる移動手段ですし、速度が一定なので参加者が殺到すると列ができてしまいます。 また、階段を下手に相互運用としてしまうとすれ違いによって通行の難易度は上がりますし、危険度も上がります。 参加者は目的地(サークルスペース)のことで頭がいっぱいですから、流れは極力わかりやすい方がよいのです。

ただし、今回は建物の構造上階段自体が非常に分かりづらいところにあり、 なおかつ会場内での掲示*7やスタッフの案内が不十分だったために導線が上手く機能していなかったのではないかと推察されます。 「上下階移動をしたくても、正面に見えるエスカレーターは使えないし、それ以外の手段はその場から見えない」 「そもそも他のフロアもあるのかよく分からないまま会場を離脱しそうになってしまう」 そんな参加者もいたようです*8

公式アカウントによる会期中の「2階⇒3階への移動方法案内」ツイート。ただし、会期中に確認できたのはこのツイートだけで、参加者には辛いと言わざるを得ません。

2. 2階⇒3階への移動制限

階段の一方通行化に加えて、 2階⇒3階への移動については「一定程度の人数がたまるまで通行を一時停止し、塊単位で階段を通行させる」 という運用(俗に「パケット運用」と呼びます)が行われていました。 (先のツイートを見れば、どのような運用がされていたのかは分かるかと思います)

運営としては3階・Cホールへの混雑集中を予測して、流量調整を行うためにこの施策を導入したのでしょう。 結果として3階の混雑度は押さえ込むことに成功したものの、自由な通行だった2階・Dホールと比べて3階にたどり着く障害となってしまい、 人の動きに明確な差が出てしまいました。 ちなみに、3階⇒2階への移動については特段の流量調整は行われておらず、 もっぱら3階の流量を重点的に抑えたかったのではないか、と推察しています。 というのも、サークルリストを見れば分かりますが、 3階・Cホールは通称「大ボス」と呼ばれている有名サークルがいくつか配置されており、 運営事務局としては相当な混雑を見込んでいたのではないか、と考えられるからです。

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一般参加者の上下階移動導線(2階)

とり得る対応は

では、どのような対応がとり得たのでしょうか。

まずは「積極的な導線案内」でしょう。 先の背景でも述べましたが、3階・Cホールへの移動方法が参加者へ十分に伝わっていなかったことは確かで、 これに対処するには事前の案内以上に当日の案内が重要になってきます。 というのも、どのようなイベントでも「当日存在を知ってふらっと来た」という一般参加者は一定程度いるもの*9で、 しかも「カタログに相当するものを入場時の必須条件としない」運用*10にしている場合、運営から当日の導線を案内するものは現地の掲示物や、 スタッフの案内(特にスタッフ自らが声を出すアナウンス)がすべてになってしまいます。 加えて、事前の情報を入手していたとしても、 到着してから一番頼りになるのは現地の掲示物やスタッフの案内なのです*11

矢印と行き先を書いた紙を壁に貼っておく、導線を示した看板を掲示する、 要所にスタッフを配置して声を出して案内する*12、その他いろいろな方法を組み合わせて、 現地で人が迷わないようにしたり、迷った人を救うことができるようにするのが理想的な対応ではないかと考えます。

ここまで大きい必要はありませんが、矢印と行き先があるだけで効果があるのが看板です。

もうひとつ、2階⇒3階への移動制限については 「予定に縛られない臨機応変な切替運用」で軽減が望めたのではないかと考えられます。 3階への移動制限を行うにあたり、どのような基準値を設けて運用していたかは当事者ではないため知るよしもありませんが、 日中の時間帯においてはそこまで厳しく制限するほどでもなかったように個人的には感じていました。 むしろ2階・Dホールの混雑を解消するためにも、3階への移動制限は極力限定的にして混雑を分散させるのも一つの選択だったのかなと考えています。 ただし、その塩梅を見極めるのはそれなりの経験を積んだスタッフでないと難しく、 そうなると予定に忠実な運用でも致し方なし、だったのかも知れません*13

もしくは、待機させる場所を2階では無く3階の待機スペースから使うのも、 とり得る対応としてはあったかと考えられます。 つまり、2階⇒3階への移動は(列の幅は制御するものの)特に制限させず、 3階に上がったところでエリアの混雑を見ながら入場制限を行うスタイルにすれば混雑状況も見通し距離で確認できますし、 より混雑状況に応じた運用ができた可能性があります。 ただし、2階に待機列ができない分余計に3階へのルートが分かりづらくなるので、先に提言しているとおり積極的な案内が必要となりますが。

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3階の待機列が無くなったあとなら、このスペースは有効に使えたはず(図は技術書典公式サイトのサークルマップを部分抜粋)

次回予告

今回も気がついたら5,000字近い読んでて辛い記事になってしまいました。 次回記事では運営スタッフの導線管理や誘導技術(Technic)を観点に考察する予定です。

*1:https://twitter.com/ryo_naka/status/1175609941618352129https://twitter.com/dsler/status/1175612524777000960 など。

*2:https://twitter.com/tenntenn/status/1175624202696527872https://twitter.com/mofukaburTech/status/1175632395124391936 など。

*3:公式サイトのサークルチェックリストでチェックされた数。技術書典は自分自身のサークルへのチェック数が分かるようになっています。

*4:https://twitter.com/erukiti/status/1175922121614082048 とはいえ、2階・Dホールも両手を挙げて喜べるサークルばかりではなかったようです

*5:コミックマーケットでは東京ビッグサイト全館を借りていなかった頃に公共エリアを専門に担当する「公共地区担当」という部署がつくられ、今でも存在しています。それほど公共エリアの管理は難しいのです。

*6:全館貸し切りでない場合、導線関係については占有や積極利用を禁止されることがままあります。

*7:出入口や配置記号の掲示は見かけたものの、矢印の付いた導線を示す掲示はほとんど無かったように記憶しています。

*8:https://twitter.com/alfe_below/status/1175627810678788096https://twitter.com/yamato_hal/status/1175678872286662656 など。

*9:実際のところ、それ以上に「何があるのかよく分からないけど来てしまった」来場者も結構いるのですが、それは会場外の話になるので割愛します。

*10:技術書典の場合、カタログに相当する『技術季報』はあくまで「運営へのお布施」であって、別に買わなくても入場は可能になっています。

*11:混雑した中でわざわざ地図を開くよりも、現地の案内を見た方が早いのは想像に難くないと思います。

*12:スタッフが立っている一番の利点は、自ら声を出して対応できることです。ただその場に立っているだけなら看板と変わりありません。

*13:危ない橋を渡るくらいなら、安全側に倒す方が良いのは当たり前でしょう。